新年度がはじまってもうひと月。そろそろ身体検査という学校もあるでしょう。
視力検査も今は顕微鏡のような機械を一人ずつのぞきこみますが、昔はのんきなものでした。平たくて黒いスプーンのようなものを片目にあて、先生が棒で指す輪の欠けたところを「上、右」と衆人(級友?)環視の中で答えたのです。
「ええっ、それも見えないの?」
まるでプライバシーおかまいなしに互いに盛り上がったものでした。なかには番が回ってくるまでに下のほうの細かいところは覚えてやろうと試みる物好きもおりました。
さて、この懐かしい検査方法は黒板に書いた文字が見えるかどうかを主に調べていたと言われます。
でも待って…じっと黒板だけ見ているわけじゃありません。この検査では測れない大切な力があるのです。
①遠近調節力【前後・上下の次元】
ネット時代といえども、小学校では黒板の先生のお手本をノートに写す時間も少なくないようです。となると、3m以上離れた黒板と20cmも離れていないノートの間でスムーズに焦点を切り替える力も大切。
②両目のチームワーク【左右の次元】
片目ずつ調べていては、両眼視、つまり目のチームワークがうまくできているかはわかりません。利き目が左右どちらなのかも、横書きのものを楽に読めるかどうかに関係します。
これらの力を育てるのに役立つ要素のひとつがSTNR(対称緊張性頚反射)。四つんばいの赤ちゃんが頭を前に倒すと脚が伸びて腕が屈し、頭を後ろに倒すと腕が伸びて脚が屈します。別に伸ばしたり曲げたりしようとしているわけではなく、頭の動きにつられて腕と脚がおのずと曲がったり伸びたりするので反射と呼ぶのです。
それにしても、確かに、どちらも学校で全員検査していたら先生ものびてしまうかもしれません。
だから、しらみつぶしに無駄な検査をするよりも、ふだんの観察がものを言うのです。先生が観察眼を磨き、のびのびと身体を使って遊び、学べる環境を備えてくれることがどれほど大きなプレゼントとなることか。
いま、都会の景色は直線と平面と四角に遮られ、子ども達の目が遠景や曲線、樹木や稲穂の波打つ動きを楽しみ、自然に学びの準備を整えることは容易ではありません。
とはいえ、誰もがすぐに田舎に引っ越すわけにはいきません。たくさんの子どもが集う学校こそ、第二の自然、田舎であってほしいと願います。